セレイアは思い出していた。

ディセルと出会ったばかりの頃、トリステアの図書館で、この世界のことを教えていた時のことだ。

ディセルは言った。三界のほかに、“運命の間”があるはずではないか、と。

その時は何それと、軽く流してしまっていたが…。

もしも今得た知識が真実のものであれば、ディセルは記憶を失ってなお、重大な世界の秘密を知っていたことになる。

理の塔に足を踏み入れなければ、知るはずもないことを、ディセルは知っていたのだ。

(どういうこと……?)

それに、“理の鍵人”という新たな存在も気にかかる。

もしやそれが、ディセルなのではと思うと、恐ろしさが胸に広がった。

(ディセル、あなたは、何者なの……?)

思わず、ディセルを見上げる。ディセルも同じ知識を見せられたはずだ。少しぼんやりとしたまなざしで虚空を見つめている。

「…………」

ディセルは何かを深く考え込んでいるようだ。

セレイアと似たようなことを考えているに違いない。

しかし今は一刻を争う時だ。

次の階へと続く光る階段は、すでに出現している。

「ディセル! ポック! 急ぎましょう!」

塔を進むにつれ、セレイアの胸には不安が膨れ上がって来ていた。

これ以上真実を知れば、後戻りはできないような―不安。

けれど、今は前に進むしかないのだ。

セレイアは前だけを見て、足を踏み出した。