ここは雪と氷と―――樹氷の世界なのだな、とセレイアは思った。

吹き付けられた空気の水分が凍り、緑深き針葉樹を美しい氷の樹木へと変えている。そんな樹氷の森が、どこまでもどこまでも続いているのだ。

空気は冷たいが、ほんのりと冷たい程度。樹氷ができるような温度とは到底思えない。少なくともトリステアでは、もっと気温の低い時にしか、樹氷はできなかった。

ここはなんというか、美しくも厳しいトリステアの自然の、厳しさだけをなくしたような、そんな場所だ。

いつまで見ていても飽きない美しさだが、セレイアには考えなければならないことが山ほどあった。

まず、レコンダムをはじめとした大勢の人間たちが、この天上界に来ているはずだが、どこにいるのか。彼らは何を企んでいるのか。

次に、少しの時間差で扉をくぐったシルフェやサラマスは、どこにいるのか。

なぜ、ディセルとセレイアだけがこの場所にたどりついたのか。

そして…………

(私………ディセルのことが………)

天上界の扉へ飛び込む直前、気づいてしまった自分の本当の気持ち。それがあまりにも衝撃的で、正直言って天上界のことよりなにより一番に驚いていることだった。

信じがたくて、心底とまどう。

こんな気持ちに気付いたからといって、どうしていいのかもわからない。