そっと手を合わせて、ひたすらに君の幸せを祈る。土曜日の学校は運動部の部員たちの声と吹奏楽部の演奏が響いている。私にはそんな時代はなかったなあ、と思いながら、私はその場を立って屋上へと向かった。


あの頃と変わらない景色。一つだけ違うのは、フェンスの高さだろう。あのことがあってから、フェンスを張り替えてあの頃より高くなっている。


かしゃん、とフェンスにそっと指を絡めた。あの日も、同じことをしていた。そうしたら、君と逢えた。


逢ったのは、屋上ではなくて私の教室だったけれど。それなら、私がこのあと今日教室に行ったらまた君と会えるのだろうか。


そんなことはないと分かりながら、どうしても期待してしまう。あの日君と別れてから、私はいないと分かってずっと君の面影を探し求めている。


もし、あの時。落ちたのが君ではなくて私だったら、と。


何度もなんども考えた。もし君が私に気付かなかったら。私がもっと早くに決断してあの場所から飛び降りていたら。君が来るのが遅かったら。君が伸ばした手から逃れていたら。


死ぬ、ということが怖かったわけではない。死ぬことに対して抵抗を持っていたわけでも、死にたくないと思っていたわけでもなかった。寧ろ、あのセカイに見切りをつけて、消えてしまいたいとさえ思っていたのに。


どうして私は、生きているのだろうか。なぜまだ沢山の未来があったはずの君の代わりに私が生きているのだろう。


私が死んで悲しんでくれる人なんていなかった。いるとしたら、一人だけ。たった一人の双子の片割れだけ。君も、君の友達も、君ではなくて私が死んでいたら、きっと誰も悲しむ人なんていなかったのに。




――――なんで、私は生きているのかな。




君には生きる意味も心配してくれる友達も悲しんでくれる親も悔やんでくれる先生もあった。私には生きる意味も心配してくれる友達も悲しんでくれる親も悔やんでくれる先生も、誰一人としてなかった。死ぬべきなのは私だったはずなのに、実際に死んでしまったのは君で。


もし、が溢れて私を苦しめる。もし、もし、もし、もし――――もし、今このセカイにいるのが私じゃなくて君だったら。きっとセカイは君を祝福しただろう。私と違ってみんなから愛される君を、心から。