枷がなくなった私には、本当は生きている意味なんて無いのだ。誰もきっと私を必要としていないから、私は浮世にいるべきではないのに。


それでも常世にいけないのは、君が生きているかもしれないから。突然消えてしまったけれど、いつかきっと約束を守りに来てくれると思っているから。


いっそ、私を突き放してからいなくなってくれたらよかったのに。そうしたら、こんな風に悩むことも、自分の生にしがみつくこともなかった。すっぱりこの世とさよならして、今頃はきっと常世にいた。


もし私がここで生を諦めたら、君はなんて言うかな? 私に枷を作ってくれた君は、私を見捨ててしまうのだろうか。


……馬鹿だね。生を諦めた時点で見捨てるも何もないのに。本当は私、諦めたくないのかもしれない。


それ、はたった二年に過ぎなかった。けれど私のセカイは、その二年で大きく変わった。


人から必要とされること。それだけが私の生きる意味で、必要とされたいがために必要以上に人と関わりすぎた。


ただ、独りになりたくなかっただけ。否、独りになりたかったのかもしれない。誰も知らないセカイで独り、やり直したかったのかも。


そこまで考えて、ふっと嘲笑を零す。笑ってしまう。そんなこと考えたって詮無いことだ。


少なからず人通りのある道は、私に視線を集めるのに最適だ。傘を持っているのに差さない私を訝って、みんなが気味悪がるようにして私を避けて通っていく。どんどん私を追い越していく人たちは、何をそんなに急いでいるのだろう。そんなに急いで何かがあるのだろうか。


さーさーと降り注ぐ時雨は止まることを知らず、遮るもののない私をしっとりと濡らしていく。空は白に近い灰色。青空は嫌いだから、これくらいの方が好き。


向かうのは自分の住むアパート。君の住んでいたところにいければ行きたい、けれど私は君の住んでいる場所を知らない。


知っているのはお互いの名前だけだった。その名前すら、本当かどうか分からないけれど。


それでも、名前を呼ぶといつも嬉しそうに返事をしてきた君を思い出す。でも君が消えてしまった今となっては、その声ももう届かない。