「紘を、忘れないであげて。辛いと思うけど、忘れないで」


だって君は、五年間もここで彼を待っていた。君にとって彼の存在がどれくらい大きいかなんて、二年間ずっと君を見てきて痛いくらいに実感した。だけど、そんな君が、僕は。


唇を振るわせ泣くのを我慢する君を、僕は強く抱き締める。不意に糸がぷつんと切れ、泣き出した君の背中を、僕は優しく叩く。幼子をあやすかのように、ゆっくりと。


いつの間にか、自分でも気付かないうちに想いは抑えることが出来ないくらいまでに膨らんでいた。彼を待つ君に、僕は惹かれていた。けれど自ら君に声を掛けることは、どうしても出来なかった。




それでも、僕は君と出逢うことが出来たのだ。




ならば、僕は君に伝えるだけ。伝えて、君が拒絶しようと何をしようと傍にいて、君を支えるだけ。何があろうとも、ずっと。




「聞いて、由花」




泣きじゃくる君に、僕は優しく声を零す。しゃくり上げながら僕を見上げた君を、僕はしっかり見つめて。




「――――愛してる」




そう紡ぐと、僕はキスを落とした。