いきなり兄の存在を知らされ、しかも双子だと言われ、直後目の前でその兄に死なれたのだ。母は憔悴しきっていてとても兄のことなど訊ける雰囲気ではなく、だからと言って僕に父親はいない。親戚の連絡先も知らないので訊くにも訊けず、自らの気持ちをどうすることも出来ず、抱え込むのに必死で君のことにまで頭が回らなかったのだ。


それから三年が経って落ち着いた僕は、兄の住んでいた町に引っ越してきた。もちろん君に会って全てを話すつもりだった。何一つ隠さず、知っていること全てを打ち明けようと、けれど。


君は三年経ったその日でも、相変わらず約束の場所で彼を待っていた。それを目の当たりにした僕は、とても伝えることなど出来ないと実感したのだ。君の思いと、想いと、意志の強さを目の当たりにして。


それから僕は一つの約束を守り、もう一つの約束を果たすことなく胸に秘めたまま、二年間この町で過ごした。君に会うこともなく、君に会いに行くこともなく、二年間。それも、もう時間切れだったのかもしれない。君から逃げるのも、現実から目を逸らすことも、全て。




「……こう、」




僕の零した名前を、君が放心しながら紡ぐ。うん、と痛い笑顔で頷いて、僕は由花、と名前を落とした。


「紘が、言ってた。由花にごめんって伝えて、って。約束、守れなくてごめんって。……ずっと伝えられなくて、ごめん」

「ひろ、は?」


死んだ、それだけを口にした。全て伝えようと思っていたのに、他のどのことも口に出来なかった。僕と彼の関係も、どうして彼が死んだのかも。目を大きく見開いて、君はその場に立ち尽くす。その表情を見ているのが辛くて、僕は君からそっと目を逸らす。


紘、と呟く君が唐突にその場にしゃがみ込む。それが見えた僕は慌てて君の傍へ駆け寄る。約束は、果たした。だからここからは、僕の勝手なお願いだ。