間髪いれずに一気にそれを飲み干し、更に追加注文をする。そんな姿など、5年間それなりに付き合ってきて初めて見るものだ。
あまりにも驚きを隠せず目を丸めて彼女を見るものだから、また困ったような笑みで俺に牽制する。
「そんな吃驚することじゃないでしょうよ。さっきも言ったでしょ。一々さ、ぶりっ子する意義も必要ももうなくなったの。」
「それは俺に対して?」
「他に誰がいるのよ。そりゃ打算的にもなるわよ。わたしだって少なからず、好きだった人には可愛く思って欲しかったんだから。」
…だから飲めるのに飲めない振りをし続けたの?
なんてそんな野暮なことなんか言えるわけもなくほぼ空に近いグラスを口に運び中身を飲み干す。やはり味は無味だ。
そして彼女の言葉”好きだった人’’がいたく胸に突き刺さる。


