「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりでしようか」
「…えっとじゃあ、ギムレット貰えますか?」
畏まりました。軽く口角をあげてそう伝え、準備のために裏へ引っ込むバーテンダー。そのやりとりを呆然と眺め不必要な言葉を吐いてしまう。
「もうあれ飲まないんだ。何だっけな、苺のカクテルのやつ」
「一々ぶりっ子する必要なくなったから。
こんな可愛いお酒飲んでるわたしも可愛いでしょ、って暗に言ってるだしね。」
嘲笑のようなはたまた苦笑いのような、そんな曖昧で含みを隠す笑顔を向けて何時もと同じように俺の隣に移動して、何時もと同じように座席に手をかけ腰を下ろす。勿論そこも何時もと同じ彼女の特等席、定位置だ。


