「ふぅー…」



カタンっと椅子を引き、机の中の物を鞄へと移す。

あの後、亜弥と別れ鞄を取りに教室へ帰ってきた。案の定誰もいなくて夕日のオレンジの光がさしこんでいるだけだった。



早く帰ろ…



残っていた教科書を乱暴に詰め込み、席を立とうとした時



ガラっ



「美優」

「け、けいちゃんっ!?」


突然扉が開いたかと思うと、そこにはけいちゃんの姿。ドアに寄りかかり、こちらを覗いてくる。



「ど、どうしたの?」

「ん?一緒に帰ろうと思って」

「え!?あ……うん、帰る〜」

「でも美優がこんな時間まで学校にいるなんて珍しいね?」

「……ギクッ!」



ど、どうしよ〜…

何て説明すればいいの?

木村比呂に呼び出されて、資料室でキスされて、倒れて保健室行って

なんて…

そんなこと絶対に言えないっ!!!

もうー!木村比呂め…明日会ったら文句言ってやるんだからね!!あ、でもお礼も言わなきゃな……



「美優?」

「ふぇ?……あ!!ご、ごめんね」

「別にいいよ。美優がボーとしてるのはいつものことだしね。じゃ、先にあそこで待ってるよ」

「うぅ…何気にグサッと言うよね、けいちゃんって。はぁ〜、分かった。待ってて!すぐ行くから」



と言うとけいちゃんはクスクス笑いながら出ていった。あたしに背中を向けたまま、軽く片手をヒラヒラと振っているその後ろ姿に見入ってしまった。



――かっこいい



誰もが振り返る美しい姿はまるで花のよう。あたし達蝶は、誘われるように甘い蜜の香りに誘われてしまうんだ。



「けいちゃん…」



もう見えなくなった教室にポツリと呟いてスーっと消えた