「…や、やめてっ!」





今日も教室内にあの子の泣き声と、奴らの笑い声が響き渡る。


私達傍観者はただ、気にしないように見て見ぬふりをした。


あの子は、吉野さん。
中2になった春早々、イジメグループのリーダー杏珠(あんじゅ)に目をつけられてしまった。


杏珠、美優(みゆ)、千聖(ちさと)が吉野さんを毎日のように裂かずんだ目で軽蔑しイジメていた。


もちろん、私だって良心がある。
ただただ見ている自分の勇気の無さと醜さに哀れていた。

でも…怖いんだ。
今の吉野さんがもしいなかったら他の誰かで私だったかもしれないと思うと恐怖に満ちた。
だから、吉野さんを助ける、という
危険を及ぼすことは私には絶対できない。


「ほら、拾ってこいよ!」

吉野さんの教科書を二階の窓から投げ捨てる杏珠。


「………やめてください。」



か細い声を振り絞って吉野さんは言うが、


「あ?聞こえねぇんだよ!」

と、千聖。

「…っ!」

引きつった顔を見せて、教室のドアから出て行った吉野さん。



「きゃははははは!にーげた、逃げた♪」


「超オモロいんやけど〜!」


「ほんまダッサ!」


口々に言う奴らを、気にせず、いや、気にしても気にしないフリをして私達中立のグループは違う話題を話す。


「昨日…見たよね!あのドラマ」

「うんうん!」

「お、面白かったけど…さ、やっぱドキドキするね!」


できるだけ、気に触らないように静かに話す。

なんて悪質なんだろう、私たちは。
なんとか、会話しようとはするが自然と無言になる。