「……せ……ん」

「……」

「高瀬さん!!」


誰かが私を呼んでいる?
分かっているのに目が開かない。
腕も指すらも動かない。


「……ごめんなさい高瀬さん」


何で謝って。
そう思った時だった。
柔らかい何かが私の唇を包み込む。


「っ……ゴホッ……」

「高瀬さん!!」

「せ……せんせい……?」


息苦しくなって口から水が溢れ出す。
それと同時に私の目はゆっくりと開かれる。
私の目に映ったのは青ざめた顔で私を見る先生の顔だった。


「高瀬さん!大丈夫ですか……?」

「は……はい……。
助けて頂き……ありがとうございます」

「高瀬さん……」


先生は私の肩を掴み真っ直ぐと見つめてくる。
そしてバチンと高い音が響き渡り私の頬に痛みが走った。


「……先生……」


目の前にいる先生はいつもの優しい笑顔はなかった。
見た事も無い怖い顔。
でも泣きそうにも見えた。
その顔にズキンと胸が痛む。


「僕……言いましたよね?
無理は禁物と」

「……はい」

「キミの気持ちは嬉しいです。
僕の為に夢を叶えようと必死になってくれている。
十分に分かっているつもりです」


先生の声は少し震えている。
声だけじゃない。
手も体も唇も。


「でも……。
キミが傷つくのは嫌なんです。
体も……心も……。
ズタズタになるキミは見たくない」


先生が心配してくれているのは分かる。
その気持ちは嬉しいけど。


「泳げない。
今の自分が嫌なんです。
だから無理してでも早く……」

「いい加減にしなさい」


初めて聞く怒鳴り声に私は思わず肩を震わせる。