『俺がお前を使う事はない』

『使って欲しいのなら
それなりの事をして貰わなきゃな』


不気味な笑み。聞きたくない声。
それが先生の声と重なっていく。


「キミの泳ぎは本当に素敵でした。
今でも胸に焼き付いています」

「……」

「大会でも常連だったキミ。
でも、中学2年の時から全く大会に出場しなくなった。
その理由が知りたいんです」


先生の言葉に忘れようと閉じ込めていた記憶が頭をよぎった。

嫌だ。
もう、やめて……。


「やめて……三井先生……」

「高瀬さん!?」


カタカタと震えだす体。
耐えきれずに私は椅子からずり落ちた。


「高瀬さん!!」

「いやぁ!!」


伸ばされた手を拒絶する様に振り払った。


「大丈夫ですから!」

「あっ……」


フワリと優しい温もりが私を包み込んだ。
感じる体温も、耳に届く声も、鼻を掠める匂いも。
私が嫌うあの人とは違う。
この人はあんな人とは違う。


「蒼井先生……」

「大丈夫です」


優しく背中を撫でてくれる先生。
私の震えていた体は少しずつ元に戻っていく。
先生とは初めて会ったはずなのにどこか懐かしい感じがする。
私は先生にしがみつきながら声を押し殺す様に涙を流した。