「私は試合に出る為に自分を売ろうとしたんです。
やってはいけない事をやってしまいそうになった」


三井先生の言いなりになろうとした。
水泳が好きだという想いを間違った方向に使おうとしてしまった。


「私は自分が許せないんです。
少しでも判断を誤った自分が……」


あの時。

もしあのまま三井先生と関係を持っていたら。
一生、後悔をしていただろう。


「だから私には泳ぐ資格はないんです」


今まで私は男子部員や三井先生のせいにして自分は被害者面をしてきた。

あの事件があったから大好きな水泳が大嫌いになった。
あの事件のせいで水泳を辞めた。

そう決めつけて逃げ出した。
でも本当は。


「誰も悪くなんてなかった……。
人のせいにして自分が犯した罪を忘れようとしていた」


そんな私が。
純粋に水泳が好きな人たちの中に入っていい訳がない。
私に水泳をやる資格なんてもうない。

私はどれだけ最低な人間なのだろうか。
止まる事を知らない様に涙は次から次へと溢れ出す。
胸が苦しくてもどんなに辛くても受け入れなくてはいけない。
それが私の償いだから。
苦しんで苦しんで、生きていかなければいけない。


「高瀬さん」

「は……い」


涙で先生の顔が見えない。
でもなんとなく見える視界に先生の手が伸びてくるのが見えた。


「先生?」


先生の手は優しく私の頬を包む様に触れていた。


「もういいんですよ。
キミは十分に苦しんだじゃありませんか」

「え……?」

「キミは何も悪くない。
そろそろ自分を楽にしてあげて下さい」


まるで大事な物に触れる様に先生は私の頬を撫でる。
先生の瞳があまりにも優しくて私の心臓はドクンと脈を打った。


「キミは自由になっていいんですよ」

「先生……」


先生の言葉が驚くくらいに私の胸に溶け込んでいく。