「これが私が泳がなくなった理由です」

「……」


先生は哀しそうに戸惑った顔で私を見ていた。
優しい先生の事だ。
私を傷つけない言葉を探してくれているのだろう。


「もう昔の事です。
だから先生がそんな顔をする必要はありません」


ニコリと笑顔を浮かべれば先生は泣きそうな顔で私を見つめていた。
なんか子犬みたいな顔だ。
クスッと笑えば先生の両手が私に向かって伸ばされた。


「先生……?」

「泣きそうな顔で……笑わないでください」

「……」

「泣きたい時は泣いてもいいんですよ」


泣きそうなのは先生じゃん。
そう思って笑おうとしたけど私の目からはジワリと涙が溢れ出す。


「何で……?
泣きたくなんかないのに……」


先生は力強く私を抱きしめてくれる。
先生の温もりが私の体だけではなく心までを優しく包み込んでくれた。


「高瀬さんは今でも水泳が大好きなんですよ。
本当は……自分でも気が付いているのでしょう?」


先生の優しい声が私を素直にさせてくれる。


「……はい大好きです。
泳ぎたくて……泳ぎたくて……どうにかなりそうで……」


私への水泳の気持ちは今も昔も変わらない。
いや、もしかしたら。
今の方が強いのかもしれない。


「高瀬さん」

「はい……」

「もう1度泳ぎませんか?
水泳部で……僕と一緒に」

「……」


先生の優しさは凄く嬉しい。
私だって出来る事ならそうしたい。
でも。


「それは出来ないんです」

「どうしてですか?」


先生は私をゆっくりと離すと視線を合わせる。
先生の目は真剣でどこまでも真っ直ぐだった。