「高瀬さん。
オリンピック、優勝おめでとうございます」


先生は私を見て目を細めて笑った。
今まで見てきたどんな笑顔よりも優しくて。
つられて私の顔にも笑顔が浮かんだ。


「ありがとうございます!!」


お礼を言いながらオリンピックの事を思い出していた。

今は8月の後半で落ち着いているけれど。
上旬は忙しかった。
それは嬉しい悩みでもあったが。
実は私はオリンピック選手に選ばれるという快挙を成し遂げたのだ。
でも私だけではない、高岡くんもだ。
そして2人揃って優勝という最高の結果も出せた。
思い出すだけで顔が緩んでしまう。
楽しかったな、オリンピック。
ニヤけているであろう私の顔を見ながら先生はクスリと笑った。


「オリンピックでの泳ぎは凄く素敵でした」

「……ありがとうございます」


他の誰に褒められるよりも先生の言葉が1番嬉しい。
先生の声は私の胸にすんなりと入り込んでゆっくりと溶けていく。
嬉しくて言葉が出せないでいれば先生はそっと私の肩を抱きしめてくれた。


「本当に、本当に……素敵でした……」

「先生……?」


先生の声が僅かに震えている気がして見上げれば言葉を失ってしまう。
だって先生が泣いていたから。
さっきまで柔らかい笑顔を浮かべていたのに、顔をクシャクシャにして泣く先生。
でも胸は痛まなかった。
だって、哀しい涙ではなくて、嬉しい涙だったから。