僕とキミが離れて数カ月が経った。

久しぶりに見たキミの姿はテレビ越しで。
それでも分かったんだ。
キミの瞳は冷たくて何も映っていない。
その目と同様にキミの心は凍えきっていて、僕に見せてくれていたあの満面な笑顔の面影なんてどこにもない。

彼女の心が悲鳴を上げているというのに。
僕はテレビに映るキミにしか触れる事が出来なくて。

どんなに手を伸ばしたってキミには届かない。
どんなに名前を呼んだってキミには聞こえない。

苦しんでいるキミに僕は何もしてあげられないんだ。

もう、やめて。
もう、苦しまないで。

そんな僕の叫びは虚しく消えていく。

キミの笑顔が見たいだけだった。
キミの泳ぎが見たいだけだった。

僕が余計な事をしなかったらキミは傷つかなくて済んだのかな?
キミは幸せになれたのかな?

僕がどんなに後悔をしようがもう遅い。
だけど後悔をしずにはいられなかった。

そんな僕の心を突き落すかのようにテレビはキミの泳ぎを映しだした。
沢山の歓声が響き渡って、彼女を持ち上げる声もあるのに。
僕は泣く事しか出来なかった。

彼女が選抜の大会で1位を取ったから?
世界記録を超すタイムを出したから?

違う。

彼女の泳ぎがあまりにも苦しそうだったからだ。
もう泳ぎたくない、それが分かる様な泳ぎ。
いつも楽しそうに泳いでいたキミはもうどこにもいない。
それでも泳ぐのは僕のせいだ。
僕を守る為に辛いのに泳ぎ続けている。

その小さな背中に全部を背負い込んで。
またキミは1人で闘っているんだ。

僕はキミの足枷にしかなれない。
自由に泳ぎ回っていたキミを繋ぐ鎖にしかなれないんだ。

ごめん……ごめんなさい……。

何度も呟いても彼女には届かない。
きっと今もキミは苦しみながら泳いでいるんだ。