「高瀬さん!凄いね!
選抜で優勝するなんて!!」

「本当に格好良い!!」


盛り上がる教室で私は苦笑いを浮かべていた。
皆はテンションが上がっていて、普段喋った事のない様な他クラスの人まで私を囲んでいる。

選抜合宿から2カ月近くが経ち、見事、候補から選手へと選ばれた私。
そして昨日が選抜の大会だったんだ。

世界記録を越したタイムを叩きだし、優勝をもぎ取った。
嬉しいはずなのに、やっぱり心は苦しくて。
泳ぐ事を楽しいと思えていた数か月前が懐かしいくらいだ。


「おーい。
お前ら席に着け!!」


教室に入ってきたのは伊藤先生だった。
先生が辞めた後、伊藤先生が私たちのクラスの担任へとなった。
この教室に先生がいない事も、今となっては慣れつつあって……。
他の人に至っては先生の話すら出てこなくなっていた。


「……」


そんな教室にいたくなくてコッソリと抜け出す。
授業をサボるなんて先生がいた頃には考えられないけれど。
今となっては普通になっていた。


「あーあ……退屈だなー……」


んっと、伸びをしながら廊下を歩く。
私の生活はガラッと変わっていた。


「高瀬さん、今から練習?」

「……はい」

「頑張ってね!」


授業中だというのに廊下を歩いている私に怒る事もしない。
ポンと肩を叩かれ逆に応援をされるくらいだ。


「……頑張ってね……か……」


私が選抜に選ばれてからというもの、先生たちの対応も変わっていた。
授業を受けなくても怒られない。
寧ろ真面目に受けていれば『練習をしなさい』と怒られる始末だ。