自分の気持ちに素直になったからこそ思い出した気持ち。
誰かの為ではなくて自分の為に。
私は泳ぐんだ。


「……先生の夢を叶える為に苦しむのか?」

「……結果的にはそうかもしれない。
でも私は自分の意思で……」

「校長に脅されて無理やり泳がされてるのに自分の意思とか関係ねぇだろ!!」

「……それは……」


何も言えなくなって黙り込む。
いくら自分の意思で泳ぐと言っても、校長先生との約束がある限り私の意思かどうかなんて関係ない。
高岡くんの言っている事は正しすぎて言い返す事も出来ない。


「もういい、やめろ」

「やめるって……」

「俺が先生の夢も校長との約束も引き受ける。
だからお前はもう自由になれ」

「自由に……」


声に出しても実感は湧かない。
高岡くんに甘えて自由になったとして、私には何が残るのだろうか。
高岡くんへと全てを押し付けて。
私1人だけが逃げ出して楽になるなんて。
そんなの……。


「その方がいいと思う」

「俺もそう思うぜ」


静寂が包み込んでいた空間に2つの声が落とされた。
高岡くんの腕に抱かれたまま振り返れば、赤星くんと平井くんが目に映った。


「ふ……2人とも!どうしてここに……」


驚く私とは対称的に高岡くんは落ち着いたままだった。


「悪い、コイツらに相談したんだ。
……先生の事も含めて」

「そう……なんだ……」


高岡くんは謝ってはいたが悪いとは思っていないみたいだった。
高岡くんは私の為にやってくれたことだから。
それを分かっているからこそ私も怒る気はサラサラない。


「高瀬 真希。
アンタはもう泳がない方がいい」

「は……?」

「今のアンタの目は前までの俺とそっくりだ。
水泳の楽しさを忘れていた時の俺と」


合宿の初日に赤星くんが私を心配そうに見ていた時の事が頭に浮かんだ。
きっと彼は高岡くんに相談をされる前から何かを感じ取っていたんだろうな。
今思えば、本当に馬鹿だなって思う。
自分では感情を押し殺しているつもりでいたのに。
結局は皆に心配や迷惑を掛けて。
申し訳ないとは思うけれど。


「私は泳ぐよ」


でも、ココだけは譲れない。