夢が繋げた未来~何度倒れても諦めないで~

「アイツはさ……本当に凄い奴でさ……。
……誰もアイツには勝てなかったんだ」

「……」


原田選手の声には沢山の想いが籠められている気がした。
そんな優しい声に私は顔を上げて原田選手を見つめた。
大切な思い出を懐かしむ様に、原田選手は柔らかい笑顔を浮かべている。


「前に言ったと思うけど、俺は元々は平泳ぎの選手だったんだ」


それは前に私と高岡くんが原田選手と泳ぎで勝負をする時に言っていた事だ。
平泳ぎから自由形へと転向したと言っていたがそこにはきっと何か理由があるって思った。
だって、何も無かったら原田選手はこんなにも悲しそうな顔はしないはずだから。
何かを堪える様に必死に笑顔を浮かべてはいたけれど。
誰がどう見たって今にも泣きそうで。
胸に留められないほど大きな何かを持っているんだ。
きっとそれは私がどんなに考えたって分からない事で私なんかではどうにも出来ない事だろう。
それでも話だけはきちんと聞きたくて黙ったまま原田選手を見つめた。


「どんな泳法よりも平泳ぎが大好きで……。
ずっとこの泳ぎで世界に名を残そうって思っていた」

「……」

「だけど、すぐ隣には俺なんかより遥かに才能もあって努力もして。
とんでもない化け物級の天才がいたんだ」


紅茶を見つめたまま原田選手は笑った。
その笑顔の裏には少しの悔しさが含まれているような気がしたんだ。

原田選手が言う天才とは勿論、先生の事で。
幼馴染だからこそ、親友だからこそ。
そのあまりにも高い壁に苦しんでいたのだろう。


「それでもアイツに必死に食らいついて馬鹿みたいにムキになって。
1人でライバル意識むき出しにしてさ」


彼にとってはとても大切な思い出なんだって伝わってくる。
原田選手の顔は優しく微笑んでいて嘘偽りのない感情なんだなって思うと胸が熱くなった。


「でもどう足掻いたって蒼井には敵わなかったよ」


悔しかったはずなのにどこか誇らしげな原田選手。
先生の事を本当に大事に想っているんだな。
きっと一瞬たりとも、先生を嫌った事なんてないのだろう。
そうでなかったらこんなに優しい顔では笑わないと思う。