「蒼井は今のお前を見てどう思うんだろうな」

「……っ!!」


ポツリと呟いたお父さんの言葉に私はスポーツバックを落としてしまった。
驚いたお母さんも手を離し、地面に転がり落ちたそれ。
ファスナーがきちんとしまっていなかったせいで、水着が中から飛び出していた。


「……」


それを見ると無性に悲しくなる。
私はずっと水泳が大好きだった。
水着だって、見るだけでワクワクとして心が弾んでいたのに。
今は胸が張り裂けそうになるくらいに苦しい。


「真希、蒼井はお前の笑顔が見たいんじゃないのか?
お前が苦しそうに泳いでいる姿なんて望んでなんかないと思うぞ」


お父さんは静かにそう言うとリビングへと戻って行く。

私だって分かっているつもりだ。
先生は今の私を見たらきっと哀しむだろうし怒るだろう。
だけど、私には他に何も出来ないから。
だから……泳ぐ事を止める訳にはいかない。
しゃがみ込んで水着を鞄にしまっていればお母さんもその場にしゃがみ込んだ。
私の目を真っ直ぐと見つめながら小さく口を開く。


「あなたはいつだってそうよね」

「え?」

「前に泳げなくなった時も、あなたは1人で殻に閉じこもった。
辛い、苦しい、怖い。
そんな弱音すら私たちの前では吐かなかったわね」


お母さんはそう言うと軽く目を伏せてタメ息を吐いた。


「真希はそうやって1人で苦しんでいるって思っているかもしれないけど。
周りの人間は、余計に心配になるのよ!
弱音を吐いてくれた方が私たちだって一緒に悩んであげられる。
だけどね、あなたが自分で殻を破らないと私たちは何も出来ないの!!」


涙でいっぱいになったお母さんの顔。
ずっとそうだった。
私はお母さんを泣かせる事しか出来ていない。
親不孝な娘だって自分でも分かっている。
だけど。


「私は大丈夫だから」


誰かに助けて欲しい訳ではない。
これは私の問題だから。