「皆、聞いてくれ」


凛とする部長の声。
皆の視線がゆっくりと部長の方へと向いた。
真剣な顔で私たち1人1人を見ると部長はしっかりとした口調で言葉を放った。


「今まで俺たちは先生に沢山の事を教えて貰った。
先生が居なかったら俺たちはこんなに水泳を好きになっていなかったかもしれない。
だから今度は、俺たちが先生に恩返しをする番だ。
勿論先生から教えて貰った泳ぎで」


先生が今までやってきた事は皆にちゃんと伝わっていた。
だって皆は考える間もなく頷いていたのだから。
先生が部員1人1人と真剣に向き合ってきたからこそ皆も先生が大好きなんだろう。
やっぱり教師は先生にとって天職だと思う。
これから先ずっと。
先生は教師を続けていくべき人だ。
だから。


「……先生……私……頑張るから……」


掌を握りしめて目を瞑った。
零れ落ちそうな涙を必死で堪えて奥歯を噛みしめる。

もう絶対に泣いたりなんかしない。
そんな時間は私にはない。
私は先生の夢を、先生の想いを。
叶えなければいけないのだから。

ゆっくりと目を開けばいつもと同じ光景が映る。

見慣れたプール、大切な仲間。

だけど何かが違った。
いつもはココにいるだけで楽しくてワクワクするのに。
今は何も感じない。

私を取り巻くのは黒くて醜い。
名前の分からない感情だけだった。