「高瀬!!」

「真希ちゃん!!」


部活の終わった時間だったのにプールには部員全員がいた。
少し驚きながらも私は皆に近付いた。


「待っていてくれたんですか……?」

「当たり前だろ!!」


高岡くんは私の両肩を掴み怒鳴り散らす。
誰よりも私を心配してくれている事が分かる。
でも、もう届かないの、誰の言葉も。
冷めた気持ちを押し閉じ込めながら口を開く。


「聞いてください。先生が学校を去るのは……」


全部を話す。
それが私のやるべき事だ。
今しか話すときはない。
伊藤先生はもう帰ったみたいだしこんな機会はもうない。
だけど口が動かない。


「……」


例え皆に嫌われても構わない。
そう思っていたのに私の中に残る皆との思い出が皆と過ごした時間が。
私を臆病にするんだ。
そんな私を先輩たちは優しく見ていた。


「真希ちゃん」

「……え……」

「高岡から全部聞いたよ。
真希ちゃんは何も悪くない、だからもう苦しまないでくれ」


部長がそう言えば皆も頷いてくれる。
誰も私を責める事なく逆に励ましてくれる。
何で?何でそんなに温かいの?
皆の優しさが胸を貫いて何も言葉が出なくなった。
いっそ思い切り怒ってくれた方が私だって楽だったかもしれない。


「高瀬、お前は水泳部の大事な仲間だ。
馬鹿な事を考えるなよ」


馬鹿な事か。
高岡くんは私が水泳部を辞めると思っているのかもしれない。
確かに最初は辞めようとした。
だけど校長先生の悪質な約束がある限り私はココを去ることも出来ない。


「……うん……」


頷いたけれど私の胸はズキズキと痛みを放っている。
きっと私はもう純粋に水泳が好きだって言えなくなってしまうんだろうな。
そんな想いを抱えながらプールを見つめた。