全速力で廊下を駆け抜ける私を襲うかの様にバクン、バクンと激しく揺れ動く心臓。
でも私は知っていた。
走っているからだけじゃない。
嫌な予感が大きくなってすぐそこまで迫っているんだって分かる。
校長室が近付く度にその不安が膨らんでいく。


「……っ……」


息が切れても足がもつれそうになっても構わず走り続けた。
一刻も早く不安を取り除きたくて。
でもそこに行ってしまったら全てが終わってしまいそうで。
恐くて堪らないのに止まる訳にはいかなかった。
やっと辿り着いた校長室。
息を整える時間も惜しくてノックをした。
嫌な予感は私の勘違いであって欲しいと願いながら。


「どうぞ」

「……失礼します」


初めて入る校長室。
緊張より不安が大きかった私は俯きがちに中へと足を踏み入れた。
閉まり切った扉。
くるりと向きを変えて恐る恐る顔を上げれば只でさえ煩く動いていた心臓が更に騒ぎ出す。


「せ……先生……」

「高瀬さん……どうして……」


驚いた顔の先生。
呼ばれた理由を先生も知らないようだ。
担任だから?それとも顧問だから?
どれもシックリとは来なかった。
だって、高そうな椅子に座る校長先生もその隣に立っていた教頭先生も。
明らかに怒っているのだから。
そもそも授業中に呼び出すって事はよっぽどの……。
考え込んでいれば思考回路を壊す様な言葉が飛んでくる。


「君たちに不純な関係があるというのは本当かね?」

「交際をしているという噂を聞いたのだが」


決して冗談で言っているとは思えない重苦しい空気に私は呆然と立ち尽くす。
別に言えない様なヤマシイ事はしていないのだから堂々と否定をすればいい。
でも私は先生が好きだ。
そういった意味では不純なのかもしれない。
頭が混乱して何も考えられない。
何を言ったらいいか分からずに黙り込んでいれば突然と大きな背中が目に映った。