嫌な予感がしてから1週間が経った。
でも、まるで嘘の様に穏やかな時間で。
何も起こらないし泳ぎだって練習でだけど世界記録だって超す事が出来た。
何もかもが順調なのに私の胸は晴れない。
心臓をゆっくりと握られている様な苦しさが広がって何も考えたくなくなる時がある。
だけどそんな事を言っている暇なんて無くて。
水泳だけに集中をしていた。

そのせいで授業には身が入らないけれど。
苦笑いを浮かべながら黒板の前で訳の分からない単語を発する英語の先生を見る。


「高瀬さん」

「は、はい!」


いきなり呼ばれた事に驚きながらも返事をして立ち上がる。


「問2の英文を訳してください」


英語が苦手な事に加えて、聞いていないときた。
分かる訳もなく困っていればピンポンパンポーンと放送が鳴り響いた。
英語の先生がシッと人差し指を口元に掲げながら放送に耳を傾けている。
助かったと思いながらも直ぐにまた再開される事になるだろう。
隣の席の高岡くんに助けを求めようとしたけれど開きかけた口は動かずに固まった。


『1年5組、高瀬 真希。
至急、校長室に来なさい。
繰り返します、……』


切羽詰った様な名前も顔も知らない様な先生の声。
同じ事を繰り返す放送。
内容は分からないのに何故か心臓がバクバクと動いた。
ずっと感じていた嫌な予感。
動く事が出来ずに固まっていれば、英語の先生の声が私を現実へと引き戻す。


「高瀬さん何をしているの!
早く校長室に行きなさい!たぶん選抜の事よ!」


先生やクラスメートは笑っていたけれど私はそうだとは思えなかった。
だって選抜の事なら高岡くんも呼ぶだろうし。
何より事業中に呼び出したりはしないだろう。


「……はい」


かと言って無視する訳にもいかず頷いた。
私の口から出たのは自分でも驚くくらいの情けない声。


「高瀬……?」


高岡くんが私を呼ぶのが聞こえたけれど返事をすることも出来ずに教室を出た。