「嘘はつかないでください。
キミが水泳を嫌いになれる訳がない。
あんなに楽しそうに泳いでいたキミが……」


先生の声は哀しそうだった。
そんな声を聞いていたくない。
でも私にはどうする事も出来ないから。


「離してください!
確かに水泳は私にとって大切な物でした。
でも……それは過去の事です」

「だったら……。
何故キミはここにいるんですか?」

「そ……それは……」


私は答える事が出来ず黙ったまま固まっていた。


「それに……。
この学校は水泳の強豪校です。
本当に水泳が嫌いならここには来ないはずです」

「っ……」


先生の言葉にピクリと肩が揺れた。


ぜんぶ先生の言う通りだ。
私は水泳を嫌いになんてなれなかった。
いくら忘れようとしても私の心が、体が、鮮明に覚えていて。
水泳を求めて泣き叫ぶの。
だから未練がましく私はココに来ている。
特に意識していた訳ではない。
でも無意識に水泳を求めてこの学校に来たんだ。


「キミは泳ぐべき人だ。
才能を潰すなんて勿体ないですよ」


本当は先生の言葉は死ぬほど嬉しい。
胸が熱くなって目頭までジワリと熱を持つ。

“泳ぎたい”

たったひと言を口にすればいいのに私はそれすら出来ない。


「水泳なんて大嫌い!
だから……もう私に関わらないで!!」


先生の手を振りほどき私は走り出す。


「高瀬さん!!」


後ろから聞こえる叫び声に私は反応する事無く走り続けた。