「高瀬さん!!」


由梨と別れて廊下を歩いていれば誰かに手を掴まれる。
驚きながらも振り向けばそこには焦った顔の先生がいた。
先生が焦るなんて珍しくて呆然と見つめてしまう。
そんな私の手を引っ張り階段の踊り場に連れていくと両肩をガシリと掴まれた。


「落ち着いて聞いてください」


落ち着いた方がいいのは先生だ。
心で苦笑いを浮かべながらも頷けば先生は急に口角を引き上げた。
満面な笑みに鼓動が高鳴るけれど先生の言葉に思考回路が停止する。


「高瀬さんが高校選抜候補に選ばれたんですよ!!」


先生が言う高校選抜とは世界中の高校生が国を代表をして闘う大会の事だろう。
私は水泳部だから競技は勿論水泳だろうけど。
何故私が。だって試合だって秋大会の1度しかまだ出ていないのに。
そう思いながら首を傾げれば先生は私の肩を揺すった。


「世界記録に並んだ事が大きいですね!
あの事がキッカケに高瀬さんの名前は大きく知れ渡りましたから」


あの大会の翌日の新聞の1面には私の記事が載っていた。
そのせいで高岡くんにからかわれたのを今でも覚えている。
と言うより。


「候補って……」

「その説明は後で部員たちの前でします。
高岡くんも選ばれているので」

「え!?そうなんですか!?
だったら何で先に私に……」


高岡くんと一緒にいる時に言った方が先生は楽だと思うのに。
そう思っていればいきなり体を引き寄せられた。


「せ、先生!?」

「そんなの……決まっているじゃないですか。
キミに1番に報告をしたかったからです」


喜びを噛みしめる様な声。
それを聞いた途端に私の頬は緩んだ。
だって先生が喜んでくれている、それが何よりも嬉しいから。
さっきまで抱きしめられていただけの体。
でも腕を動かして先生の背中に回す。
お互いに抱きしめ合って喜びを分かち合う。