「っで、本題なんだけど」


そう言った原田選手は一度言葉を区切った。
何を考えているのかは分からないけれどその瞳は真剣で。
私は声を掛ける事すら出来なかった。
そんな沈黙を破る様に原田選手は私と高岡くんを交互に見つめて口を開く。


「君たち2人卒業をしたら俺の元に来て欲しい」


聞いた事も無いくらいの真剣なトーン。
一瞬何を言われたのか理解が出来なかった。
息を呑むのがやっとで、声なんて出せない。


「はあぁぁぁ!?」


言葉の意味を理解したのは高岡くんの絶叫が響き渡った時だった。
信じられなかったけど高岡くんの反応を見れば間違いではないと思い知らされた。
私も絶叫とまではいかなくても驚きが隠せなかった。
ドクンドクンと騒ぐ心臓も、熱くなる体も、背中を伝う汗も。
全てが驚きを表していた。


「そんなに驚かなくてもいいだろ?
昨日の君たちの泳ぎを見れば当然の結果だと思う」


驚く私と高岡くんに対して原田選手は冷静だった。
前もって知っていたのか先生は相変わらずの笑顔だったけれど。
そんな事より。


「当然の結果と言うか。
私たちはまだ1年です。卒業なんてまだ先ですし」

「早いって事はないさ。
君たちの凄さは昨日の試合で十分に伝わったはずだ。
2年、3年にスカウトしていたら遅いくらいだよ。
他からも沢山声がかかるだろうしね」


自分がスカウトをされるなんて夢にも思っていなかった。
それに卒業してからの事なんて正直考えられない。
水泳だってまだ再開して少ししか時間が経っていないし。
今を生きるだけで精一杯だ。
そう思っていれば、隣から騒がしいほどの声が聞こえてくる。


「本当っすか!?
凄く嬉しいです!!原田選手の元で泳げるなんて!」


戸惑う私とは違って純粋に喜ぶ高岡くん。
それが普通の反応なのだろう。
私だって中学生の頃に言われていたら高岡くんと全く同じ反応をしていたかもしれない。
でも……。
胸の中に広がるモヤモヤとした気持ち。
その正体は分からない。
だけど何かが引っ掛かる気がした。