「謝るのは俺の方だ。
君たちの為とはいえ、少し言い過ぎた。
……悪かったな」


原田選手は本当に私たちの為を想ってくれている。
それが分かるくらい哀しそうな顔。
何も関わりのなかった私たちの為にココまでやってくれる人なんて他にはいないだろう。
いくら先生の生徒だからといって有名なオリンピック選手が私たちを助ける義理なんて無いもん。
それに原田選手は憎まれると分かっていてこの役を買って出てくれた。
原田選手の事を良く知らないけれど。
優しくて人想いだという事が分かる。
そんな素敵な彼だからこそオリンピックなんて大きな舞台に出られるのだろう。


「謝らないで下さい」

「そうっすよ!
俺たちの為に本当にありがとうございました!」

「……そう言って貰えて助かったよ」


心から安心した様に笑う原田選手。
重荷が肩から降りたからかその笑顔は今まで見たどの笑顔よりも輝いて見えた。


「っで、今日はどうしたんすか?」


原田選手の笑顔に見惚れていれば高岡くんは不思議そうに首を傾げていた。
確かにそうだ。
忙しい身のはずの原田選手が何故ここにいるのだろう。
私も首を傾げながら彼を見上げた。


「ああ、ちょっと君たち2人に用があってね」

「用ですか?」

「そう。でもその前に。
昨日はお疲れ様。それと優勝オメデトウ!
君たちの泳ぎは今までよりずっと凄かったよ」


その言葉が何よりも嬉しかった。
自分の事の様に喜んでくれているその姿も。
私にとっては何よりも嬉しくて。
胸の中がじわりと熱くなるんだ。
泳いできてよかった、優勝してよかった。
心の底からそう思う事が出来る。


「……ありがとうございます!」

「ありがとうございます!」


高岡くんも私と同じ気持ちなのか本当に幸せそうに笑っていた。