赤星くんたちや三井先生と別れて3人になったこの空間は沈黙が包み込んでいた。
でも気まずいという雰囲気ではない。
会話はないけれど、喜びを分かち合っているんだ。
目と目が合えばどちらからともなく微笑み頷き合う。
言葉がなくても伝わる様な信頼が私たちの間には芽生えていた。


「……」


すると、高岡くんが拳を真っ直ぐと前に突き出していた。


「……」


フッと頬を緩めて私も同じ様に拳を前に突き出す。
そして同時に先生へと顔を向けていた。
先生は軽く頷くと目を細めながら私たちと同じ様に拳を前に出した。


「約束通り優勝したっすよ!」

「先生の賭けは大成功でしたね!」


高岡くんと私が笑えば先生は微笑みながら頷いた。


「高岡くんは敗北を知った事でひと回りもふた回りも成長しましたね」

「……うっす!」

「高瀬さんは世界新記録に並ぶ好タイムを叩きだしました。
……よく頑張りましたね」

「……はい!」


先生のひと言ひと言が私の胸に沁み渡ってくる。
思わず泣きそうになっていれば、優しかった先生の顔がいきなり悪戯っ子の様な笑みに変わった。


「でも高岡くんも高瀬さんも危なかったですよね?
僕がどんなに心配をしたか……」

「あっ……」

「えっと……それは……」


焦る私たちを見ながら先生は更に笑顔を浮かべた。


「って事で練習量を5倍にしましょう」

「……え?」

「……はあ!?」


私と高岡くんが驚いていれば、コツンと拳を私たちの拳にぶつけてきた。
呆然としながら私たちは自分の拳を見つめた。


「もう約束、しちゃいました」


屈託のないその笑顔に、いつの間にか驚きより笑いの方が大きくなる。
初めて交わした3人の約束は笑顔で幕を閉じていった。
2つの金メダルが私たちを祝福する様にキラキラと輝いた。