夢が繋げた未来~何度倒れても諦めないで~

「……高瀬 真希」


涙を拭っていれば誰かに声を掛けられた。
この声の主を私は知っている。


「……赤星くん!!」


振り向けば銀メダルを首からぶら下げた赤星くんが目に映った。
彼の顔はいつもの無表情だったけれど、どこか優しさが含まれている様に思える。


「……優勝おめでとう」

「……ありがとう」


僅かに唇の端を上げてお祝いの言葉を言ってくれる赤星くん。
少し、ほんの少しだったが笑ってくれた。
初めて見た彼の笑顔に胸が温かくなった。


「俺さ最初アンタの事なんて眼中になかった」

「……」


突然の言葉に私は目を丸める。
それはこの場にいた皆も同じだった。
それに構わず赤星くんは話し続けた。
彼の知られざる想いを、私たちに向けて。


「アンタだけじゃない。
周りの人間なんて眼中になくて、大会で勝つ事なんて当たり前だった」


平井くんが言っていた様にやはり当たり前となっていたんだ。
大会で勝つ事が。
まあ誰にも負けた事がないならそう思ってしまうのは必然なのかもしれないが。


「だからいつからか水泳を楽しいなんて思えなかったんだ。
事務的にただ泳いでメダルだけが増えて。
でも確実に俺の中では何かがすり減っていった。
それが水泳が好きだって想いだって今日アンタと闘って初めて分かった」


赤星くんの気持ちは何となくだけど分かる気がする。
もし私があのまま泳げる状態のまま、ずっと過ごして来たら。
きっと私も赤星くんと同じ様になっていたかもしれない。
そう思うと彼が抱えてきたものが他人事だなんて思えなかった。


「試合前にアンタが『楽しく泳ごう』って言ったけど俺には理解が出来なかったんだ。
水泳が、泳ぐ事が楽しいって事を忘れていた。
だからアンタの事を馬鹿だと思った。楽しく泳ぐなんて逃げているだけだって。
本気じゃないんだって……だけど……」


赤星くんは自分の胸元にあった銀メダルを手に持ち優しく目を細めた。