「痛ッ……」


目の前には頬を押さえながら呆然とする三井先生。
私の右手は不自然に上がっており掌にジンジンと痺れる様な痛みが走っていた。
この光景が示す様に私は三井先生に平手打ちをしたのだ。


「いきなりすみません」

「い、いや……」

「これで私と三井先生の因縁は綺麗さっぱりなくなりました。
それでいいですか……?」

「いいですかって……」


戸惑う三井先生に私は『あっ』と付け足す様に口を開いた。


「いつか皆に謝って下さいね」

「あ……ああ」


頷く彼を見て私は笑顔を浮かべた。
そんな私に軽くタメ息を吐いたんだ。


「本当に変な女だな……お前は」

「何ですかそれ」


クスクスと笑えば三井先生も僅かに口角を上げて笑ってくれる。
そして、三井先生は少し黙り込むと決意した様に口を開いた。


「俺は昔……」


そう言って再び黙り込む彼。
その顔は凄く苦しそうで、何かと葛藤をする様にも見えた。

恐らく三井先生は自分の過去を私に話してくれようとしているのだろう。
女性を嫌いになった理由や私たち女子部員を試合に出さなかった本当の理由も。

私にはその理由を知る権利も義務もある。
だけど。


「三井先生」

「高瀬……?」


私はその場にしゃがみ込んでベンチに座っている三井先生と視線を交じり合わせた。
そして膝にのっていた両手を自分の両手で包み込んだ。