プールから上がって、フラフラと何処かへと歩いて行く。
頭の中はまだ整理がつかなくて。
それでも足は真っ直ぐに進んでいく。


「高瀬さん!!」


その先にいたのは先生で。
先生は涙でいっぱいになった瞳を隠す事なく私に駆け寄ってくる。
そして力強く抱きしめてくれた。


「せん……せ……」


胸の奥が熱くなって、言葉が上手く出てこない。
喉に突っかかる様な感じだったけど、なんとか絞り出して先生を呼ぶ。


「……高瀬さん……」


先生の声も涙がかっていて。
その声を聞いただけで涙が溢れ出てきた。
先生の腕の中で漸く実感をする。
優勝をした事も、自己ベストを出した事も。


「先生……私……私……」


泣きじゃくる私の背中を先生の大きな掌が包み込む。
濡れている私を躊躇なくしっかりと抱きしめてくれる先生に私の頬が緩んだ。


「……出来ました、優勝……!」


2度と立つことがないと思っていた舞台。
そこに戻ってきて、最高の順位を叩きだした。
少し前の私からは考えられなくて。
それもこれも。先生のお蔭だ。
先生がいてくれたから私は優勝をすることが出来た。
先生の体を優しく押し返して、先生の顔を見上げた。
今までの感謝の気持ちを少しでも伝えたくて今私が出来る最高の笑顔を先生に向けた。


「……」


先生は何も言わなかった。
だけど何度も何度も頷いてくれる。
言葉なんて無くても先生と私の間には言葉よりも多くの事が伝わっていた。
もう1度強く抱きしめ合って2人で喜びを分かち合った。