私はガラスケースから1つトロフィーを取り出す。


「こんな物……」


大きく振り上げて床に叩きつけようとした。
でも、ピタリと止まる私の手。
それと同時に頬に涙が伝っていく。


「うっ……っ……」


トロフィーを戻した私は力なく歩き出す。
ベッドに潜り込み声を押し殺して泣き続けた。
あんな事さえなかったら今頃まだ水泳を続けていた。
こんなに苦しい想いもしなくて済んだのに。


『……もう……キミは泳がないのですか?』


その時、頭に浮かんだのは先生の言葉だった。
私の泳ぎが好きだと言ってくれた先生。
あの時の先生の言葉は凄く嬉しかった。
本当は今でも泳ぎたい。
馬鹿みたいに何もかも忘れて泳ぎまくりたいよ。
でも……。


『もっと泣けよ』


泳げない。
泳ごうとすると昔の記憶が邪魔をして震えが止まらなくなる。
だから水泳を辞めたのに。


何で今になって胸が熱くなるの?
もう昔の事じゃない。
いい加減に全てを忘れて楽になりたい。


「もう嫌だよ……」


何でこんな目に合わなきゃいけないの?
もう自由にさせてよ。

この苦しみから。
この辛さから。

誰か私を解放して。


『……何があったかはもう聞きません。
でも……話したくなったら……
いつでも僕の所に来てください』


先生の優しい声が私を優しく包み込んでくれる。

先生。
貴方を頼ってもいいですか?


「わ……私はもう……限界なんです……」


ポタリ、ポタリと涙が枕を濡らしていく。
冷たく濡れた枕に顔を埋めながら私は眠りへとついた。