ミーティングが進みもう少しで試合が始まるという時に先生が1人1人にアドバイスや励ましの言葉を贈っていた。


「次は高岡くんです」

「うっす!」

「この試合で1番のライバルは平井くんです。
キミと平井くんは実力的にはほぼ変わりません」

「……はい」


先生が言っている事は正しかった。
公式な試合で出したタイムの自己ベストは、高岡くんも平井くんもあまり変わらない。
それはこの場にいる全員が理解をしていた。
でも、私も、皆も、高岡くんが勝つと絶対に信じている。
だって。


「ですが、キミの水泳への想いは誰にも負けません。
自信を持って闘って来てください」

「はい!!絶対に勝ってきますから!!」


高岡くんより水泳が好きな人なんて誰1人いないのだから。
まあ、私を除いてだが。
心で笑みを浮かべていれば先生の視線が私に向いた。


「最後に高瀬さん」

「はい!」

「キミは特に何も言う事はありません」

「へ?」


先生の言葉に素っ頓狂な声を出してしまう。
でも、それは私だけではなかった。
皆、驚いた様に先生を見ていた。
何で私だけ何も言ってくれないのだろうか。
期待されていないとか?不安になっていれば先生は優しく私の肩を叩いた。


「キミは今までずっと苦しんできました。
泳げなくなった期間も、泳げる様になってからも」


先生は思い出す様に遠くを見つめた。
私もそれにつられて昔を思い出す。
そんなに遠くない、私の過去を。
思い返せば波乱万丈な生活を送ってきた。
高校生になって、水泳を再開してからまだ1年も経っていないというのに。
私にとっては辛くて、苦しくて。
それでも楽しかった。