「高瀬さん、高岡くん?
試合前にそれだけ余裕があれば、断トツの優勝で間違いないですよね?」


聞き慣れたはずの声なのに、どこか含みのある声に私も高岡くんも顔を引き攣らせた。
そっちを向けば、悪戯っ子の様な笑みを浮かべた先生が私たちを見つめていた。
その周りには先輩たちが呆れた顔で立っている。


「高岡も真希ちゃんもミーティングそっちのけで遊ばないの」

「エースたちがそんなんじゃこの先が思いやられるぜ」


先輩たちが頭を抱えながらワザとらしくタメ息を吐く。
そんな中でも先生の視線が1番強かった。
これはヤバいかも。
直感で何かを感じ取った私は先生に引き攣った笑顔を向ける。


「別に余裕があると言う訳では……」

「高瀬さん」

「は、はい!」


名前を呼ばれた私は思わず背筋を伸ばして姿勢を正した。


「もし仮に優勝が出来なかったら……。
練習量を10倍にしますからね」

「なっ……」


今の練習内容だけでもキツイと言うのに。
10倍なんて無理だ。
そう思いながら固まっていれば更に言葉が続いていく。


「あと、筋トレをプラスしましょうか」


普段は天使の様に優しいのに、突然と悪魔に変わる先生。
しかも、顔は笑顔だから尚更タチが悪い。
もしかしたら悪魔の高岡くんよりも厄介かも。
そう思いながら高岡くんに顔を向ければ本物の悪魔の様な顔で睨まれた。


「何だよその顔は、またくだらねぇ事でも考えてるんじゃねーだろうな?」

「べ、別になにも!!」


高岡くんから目を逸らして首を横に振った。
悪魔が2人。
しかもこんな近くに。
心でタメ息を吐きながらもミーティングに集中をする事にした。