夏の鋭い日差しが緩み、少し肌寒くなってきた。
そんな中で季節外れともいえる水着を着て、私は室内の会場にいた。


「わー……人が沢山いるー……」


なんとも弱気な声が口から出る。
喧騒の中に埋もれてしまうと思うくらいの声なのに、隣にいた男に喝を入れられる様に頭を叩かれた。


「痛ッ!!」

「情けない声を出してんじゃねぇよ!!」


頭を撫でながら隣に顔を向ければ、呆れながらタメ息を吐く高岡くんが目に入った。
彼は朝だとは思えないくらいにテンションが高かった。
それもそうだろう。
今日は“秋の高校水泳大会”の決勝の日なのだから。
テンションが上がらない訳がない。
でも、そんな彼とは対称的に私は少し弱気だった。
いや、弱気と言うのは語弊がある。
優勝をする、という想いは誰よりも強いのだから。
だけど。


「しょうがないじゃん!!胸がバクバクして破裂しそうなんだから!!」


そう。
私は今、緊張に呑み込まれている最中なんだ。
高校に入学して、初めて自由形で大会に参加をする。
前までは当たり前だったのこの光景が何だか新鮮で、感じた事も無い緊張感が私を襲っていた。

それに、こうして高岡くんと2人で同じ舞台に立つのは初めてだし。
それも私の緊張を煽る原因の1つと言えるだろう。


「ったく、本当にメンタル弱いなお前は」


馬鹿にした様に鼻で笑う高岡くんに腹が立ち私も鼻で笑う。


「なによ、ちょっと前までは原田選手に負けて立ち直れなかったくせにー」

「はあ!?今それは関係ねぇだろ!?」

「関係あります!大有りです!!」


ベーッと舌を出せば高岡くんに鼻を思いっきりつままれた。


「ちょっ!?」


息が苦しくて講義をする様に彼の腕を叩けばゲラゲラと笑われる。
本当にムカつく。
そう思い、彼の腕を更に強く叩こうとした時、コホンと咳払いが聞こえてきた。