「こんな事を言ったら顧問失格ですが……。
負けた事がないキミたちには何処かで1度負けて欲しかったんです。
本当は試合で負けた方が効果があるかと思ったのですが……。
キミたちは簡単に負けてくれる選手ではありませんし、それに僕自身も負けて欲しくなかった」

「矛盾してますけど……」


クスリと笑いながら指摘をすれば先生も小さく笑う。
それは承知の上だったのだろう。
先生の言いたい事は分かるから、私もあまりツッコまない。


「だから原田くんにお願いしたと言う訳です」


『すみませんでした』と申し訳なさそうに謝る先生に私と高岡くんは顔を見合わせる。
そして、お互いにニッと口角を上げて見せた。


「ったく、それならそうと早く言って下さいよ!」

「言ったら意味がないけどね」

「うるせぇよ高瀬!」

「うるさいのは高岡くんでしょ!?」


いきなり言い争う私たちを見て先生は驚いた様に目を丸めていた。
私たちが怒るとでも思っていたのだろうか。
そんな事あるはずがないのに。
だって私たちは。


「先生!本当にありがとうございます!」

「先生のお蔭で俺たちはまた1歩前に進む事が出来る。
だから感謝しない訳ないじゃないですか!」


感謝はしても怒るなんてあり得ないもの。
先生の優しさが改めて身に沁みる。
ココまで私たちの事を考えてくれる先生は他にはいないだろう。


「高瀬さん……高岡くん……」


涙ぐむ先生を2人でからかいながら私たちは同時に先生に拳を突き出した。


「今回の悔しさをバネに」

「私たちは秋大会で絶対に優勝しますから!!」


まるで打合せをしたかの様に言葉を繋げる。
そんな私たちを見た先生は頬を緩ませながら拳を私たちの拳へとぶつけた。


「期待しています」

「任せてください!」

「期待に応えられる様に頑張ります!」


初めて交わした3人の約束。
もう大丈夫。私たちは強くなる。
悔しさを知った私たちは今までよりもずっと勝ちたいと思えるようになったのだから。