「負けた事がない人間はその悔しさも分からない」

「あっ……」


高岡くんはハッとした様に目を見開いた。
これで分かったかな?そう思いつつも言葉を続けた。


「悔しさが分からない人間とそれを知っている上で努力を続けてきた人間が同じ舞台に立った時に。
より力を発揮する事が出来るのが後者って訳」

「じゃ……じゃあそれを分からせる為に先生は……」

「そう。
私たちは負けた事がなかったしその悔しさなんて考えた事も無かった。
でもそれじゃあいつまで経っても私たちは成長する事が出来ないまま。
敗北が、悔しさが、人を成長させるんだって知って欲しかったんじゃないかな?」


先生の方に視線をやれば、またもや困った様に笑みを向けられた。
ポリポリと頭を掻くと先生は軽くタメ息を吐く。


「高瀬さんの言う通りです。
キミたちは本当に凄い選手だと思っています。
天才と呼ばれる人たちは才能型と努力型に分けられますが、キミたちは才能型でありながら努力をし続ける人たちです」


先生の言葉に軽く首を横に振れば『謙遜しないでいいですよ』と笑われる。
だけど私は謙遜した訳じゃない。
私には才能なんてないもの。
そう思っていれば先生は少し遠くを見つめる様な目をした。


「才能はいずれ尽きてしまう事もある。
それは努力でカバーをしなければいけない。
でもその努力が出来ずに消えていった選手を僕は沢山知っています」


『だけど』と先生は続けた。


「キミたちは努力もしていて本当に尊敬しちゃいます。
でも、そんなキミたちだから少しの壁が命取りになるんです」

「……命取り……」

「はい。真面目すぎると言いますか。
1度壁にぶつかると乗り越えるまでには時間が掛かる。
天才が故の宿命です」


乗り越えるまでに時間が掛かるというのは納得が出来る。
少し前までの自分を思い出し『あはは』と苦笑いをしていていれば先生はクスリと笑った。


「でもきちんと乗り越えられれば、その分だけ強くなれるんです」


先生の言葉が何よりもう嬉しくて私は大きく頷いた。