「……高瀬さんも高岡くんも。
あの日以来、少し変わってしまいました。
それはやはりあの時の勝負のせいですか?」


誰もいない部室で先生と私は2人で向き合って座っていた。
先生のひと言にスカートの裾をギュッと掴む。
高岡くんが部活にも学校にも来なくなったのは、あの勝負が関わっている事には間違いはない。
だから、“はい”とも“いいえ”とも言えなかった。
黙り込む私に先生は深くタメ息を吐いていた。
でもそのタメ息は呆れというよりも後悔といった方が近いのかもしれない。
それを裏付けるかの様に先生の顔は今にも泣きそうになっていた。


「ごめんなさい。本当に……」

「何で先生が謝るんですか?
先生は何も悪くないじゃないですか!」


私が笑えば先生は少し俯きながら首を横に振った。
何で先生が謝るのだろうか。
誰も悪くないのに。
そう思っていれば聞き逃してしまいそうなほど小さな声が落とされた。


「あんな賭けをするんじゃなかった」

「え……」


賭け?その言葉に私は何かが引っ掛かった感じがした。
そう言えば何で原田選手と私たちが勝負をするとなった時に先生は止めなかったのだろうか。
普通はオリンピック選手との勝負なんて負けるに決まっているし自信を無くしかねないのに。
特に私と高岡くんは負けず嫌いなタイプだしこうなる事は先生だって少しは予想が出来たはずだ。
それなのに何故?

そもそも、何で原田選手は水着を持っていたのだろうか。
高校の文化祭に普通は水着なんて持ってこないだろう。
だとしたら初めから泳ぐつもりだったとか?
いや、どうして泳ぐ必要があるというんだ。

フル回転で頭が動いて漸くその答えを見つけた。
私たちに足りないモノを教える為にだ。
あの時、原田選手は確かにこう言っていた。


『君たちには足りないものがある』


だから彼はそれを教える為に水着を持ってきた。
そして勝負をする様に仕向けたんだ。
私たちの性格を知っている先生から、怒らせれば水泳で勝負をつけると言いだすだろう、と聞いていたんだ。
だからあの時私たちを怒らせるように煽ったんだ。
案の定私たちは勝負をする事になったし。
こう考えれば、先生が言った“賭け”というのもシックリくる。