「でも立ち止まってたら前には進めないから。
私たちの目標は、勝って勝って勝ちまくる事でしょ?
2人で優勝をするんでしょ?」


高岡くんの目を見つめれば彼は哀しそうに笑った。
そして力なく私の肩から手を離す。


「そうだったな。
でもな、負けたじゃねぇか2人揃って。
負けたら意味ねぇんだよ、勝たなきゃ……」

「しっかりしてよ!!」


高岡くんが呟いたと同時に私は叫んでいた。


「弱気な高岡くんなんて高岡くんじゃないよ!!」


高岡くんはいつも強気で。
どんなに高い壁でも殴り倒していく様な無茶苦茶な所もあったけど。
でも、いつも一生懸命だった。
水泳が大好きで、その為なら努力も惜しまなくて。
そんな高岡くんが大好きだった。
親友として、ライバルとして。
なのに。


「お前に俺の何が分かるんだよ。
お前はブランクがあるから負けても仕方ねぇって思えるけど。
俺はずっと必死にやってきた、俺の人生の全てを水泳に捧げてきた。
それが一気に消えてなくなる辛さがお前には分かるのかよ!!」


こんなの高岡くんじゃないよ。
そりゃあ、ずっと水泳と向き合ってきた彼には辛い事も苦しい事も沢山あっただろう。
私には計り知れない想いがあるかもしれない。
でも。


「分からないよ。
分からないけど私は……」

「だったら放っといてくれよ!」


高岡くんはそう怒鳴ると私に背中を向けて歩いて行く。


「高岡くん!!」


何度呼んでも彼は振り向いてはくれなかった。


「どうして、どうしてこうなっちゃったんだろう……」


ポツリと呟いた言葉が虚しく消えていく。
心の中にポカリと穴が開いた様な寂しさが私を支配していた。