「まずは俺と高岡君で平泳ぎ対決だ。100メートルでいいよな?」
軽く準備運動を終えた原田選手が振り向きながら高岡くんに話しかけていた。
「うっす、でも、原田選手って自由形の選手ですよね?」
「今はね。でも高1の途中までは平泳ぎの選手だったんだ。
だから歴で言えば平泳ぎの方が長いよ」
原田選手と高岡くんの会話を聞きながら私は首を傾げた。
泳法を変える事は珍しくないけど、高1まで続けていた平泳ぎを何で変えてしまったのだろうか。
あの言い方からして苦手な訳はないだろうし。
不思議に思いながらも原田選手を見つめた。
「じゃあ真希ちゃんは俺のタイムを計ってね」
「は、はい」
見つめていたら急に振り返るもんだから、声が上ずってしまったではないか。
恥ずかしさで頬が熱くなるのを感じながらも原田選手からストップウォッチを受け取る。
「蒼井は高岡君のを計れよ」
「分かっています」
「じゃあ、始めるかー」
勝負をするとは思えないほど気の抜けた声。
大丈夫なのか、そう思ったが余計なお世話だったみたいだ。
飛び込み台に立った瞬間、原田選手の目つきが変わった。
恐いくらいに集中しきった顔つきも、構える体勢も。
凄く格好良くて、思わず息を呑みこんだ。
「行きますよ、よーい……」
笛の音とともに水に飛び込む2人。
ストップウォッチを押して2人の背中を目で追った。
自由形の選手とは思えないくらいの速さを披露する原田選手。
高岡くんも速いけど、私は原田選手の泳ぎに目を奪われていた。
「凄い……迫力が違う……」
驚きが心の中では収まらず声に出てしまう。
今まで見た事がない。
胸を弾ませる様なこの泳ぎ。
原田選手がひとかきするだけで、周りに光が飛び散る様に水飛沫が飛び交う。
凄い、凄いよ。
心が鷲掴みにされて。
心臓が飛び出しそうになるくらい激しく揺れ動いて。
興奮のあまり手を力強く握りしめていた。
「はい、俺の勝ちね」
水から顔を出しながら笑う原田選手は男の目していた。
闘う選手の目。
これがオリンピック選手なんだ。
レベルの違いに声すら出せなかった。
「クッソ……!!」
悔しそうに拳を握りしめる高岡くんが視界の片隅に映る。
恐らく彼にとって初めての“敗北”なのだろう。
オリンピック選手と勝負して負けるのは本望だと言う人もいるだろう。
でも高岡くんも私も負けたくないんだ。
例え誰が相手であっても。
彼の悔しさが分かる。
だからこそ私は彼に話しかける事が出来なかった。
『大丈夫?』なんて気軽に言ってはいけない。
全力を出し尽くして負けた。
この結果がどれ程の痛みとなって高岡くんに伸し掛かっているのだろうか。
握りしめていた掌をそっと開けばじっとりと汗ばんでおり爪の跡がクッキリと刻まれていた。
ここまで興奮した泳ぎを見たのは初めてで。
私はおろか高岡くんも赤星くんも平井くんも。
この人には到底、敵わない。
世界の壁は高い上に分厚くて。
でもドキドキと高鳴る鼓動が物語っている。
私は決して絶望なんかしていない。
ワクワクして楽しんでいる自分がいるんだ。
軽く準備運動を終えた原田選手が振り向きながら高岡くんに話しかけていた。
「うっす、でも、原田選手って自由形の選手ですよね?」
「今はね。でも高1の途中までは平泳ぎの選手だったんだ。
だから歴で言えば平泳ぎの方が長いよ」
原田選手と高岡くんの会話を聞きながら私は首を傾げた。
泳法を変える事は珍しくないけど、高1まで続けていた平泳ぎを何で変えてしまったのだろうか。
あの言い方からして苦手な訳はないだろうし。
不思議に思いながらも原田選手を見つめた。
「じゃあ真希ちゃんは俺のタイムを計ってね」
「は、はい」
見つめていたら急に振り返るもんだから、声が上ずってしまったではないか。
恥ずかしさで頬が熱くなるのを感じながらも原田選手からストップウォッチを受け取る。
「蒼井は高岡君のを計れよ」
「分かっています」
「じゃあ、始めるかー」
勝負をするとは思えないほど気の抜けた声。
大丈夫なのか、そう思ったが余計なお世話だったみたいだ。
飛び込み台に立った瞬間、原田選手の目つきが変わった。
恐いくらいに集中しきった顔つきも、構える体勢も。
凄く格好良くて、思わず息を呑みこんだ。
「行きますよ、よーい……」
笛の音とともに水に飛び込む2人。
ストップウォッチを押して2人の背中を目で追った。
自由形の選手とは思えないくらいの速さを披露する原田選手。
高岡くんも速いけど、私は原田選手の泳ぎに目を奪われていた。
「凄い……迫力が違う……」
驚きが心の中では収まらず声に出てしまう。
今まで見た事がない。
胸を弾ませる様なこの泳ぎ。
原田選手がひとかきするだけで、周りに光が飛び散る様に水飛沫が飛び交う。
凄い、凄いよ。
心が鷲掴みにされて。
心臓が飛び出しそうになるくらい激しく揺れ動いて。
興奮のあまり手を力強く握りしめていた。
「はい、俺の勝ちね」
水から顔を出しながら笑う原田選手は男の目していた。
闘う選手の目。
これがオリンピック選手なんだ。
レベルの違いに声すら出せなかった。
「クッソ……!!」
悔しそうに拳を握りしめる高岡くんが視界の片隅に映る。
恐らく彼にとって初めての“敗北”なのだろう。
オリンピック選手と勝負して負けるのは本望だと言う人もいるだろう。
でも高岡くんも私も負けたくないんだ。
例え誰が相手であっても。
彼の悔しさが分かる。
だからこそ私は彼に話しかける事が出来なかった。
『大丈夫?』なんて気軽に言ってはいけない。
全力を出し尽くして負けた。
この結果がどれ程の痛みとなって高岡くんに伸し掛かっているのだろうか。
握りしめていた掌をそっと開けばじっとりと汗ばんでおり爪の跡がクッキリと刻まれていた。
ここまで興奮した泳ぎを見たのは初めてで。
私はおろか高岡くんも赤星くんも平井くんも。
この人には到底、敵わない。
世界の壁は高い上に分厚くて。
でもドキドキと高鳴る鼓動が物語っている。
私は決して絶望なんかしていない。
ワクワクして楽しんでいる自分がいるんだ。

