「行くぞ!!」


プールに響き渡る大声に私は少しホッとしていた。
さっきまで私の腕の中にいた弱々しい彼の姿はどこにもない。


「高瀬!ボーッとするな!!」

「ご……ごめん!!」


私に向かってきたボールはどこか違う所へと飛んでいく。
謝りながら私はボールへと向かって行く。

今は水泳部の出し物“水球”の試合の真っ最中だ。
思ったより観客が多く盛り上がっていた。


「……高岡くん!!」

「おう!!任せとけ!!」


私はボールを掴むと思いっきり高岡くんに投げた。
そしてそのまま高岡くんは強烈なシュートを決めていた。


「よっしゃ!!」


キラキラと輝く笑顔でガッツポーズをする高岡くん。
彼はあれから直ぐにいつもの高岡くんへと戻っていた。
私に気を遣わせない様にいつも以上に優しく接してくれた。


「……」


ちゃんとしなきゃ。

高岡くんが普通に接してくれてるんだから
私も普通にしないと。
私は1人で頷き泳ぎだす。
今はとにかく集中しなきゃ。
この勝負に勝つ。


「先輩!パスください!」

「真希ちゃん!!」


先輩からのパスを貰いゴールへとボールを投げ放つ。


「わっ!?」


キーパーの人が思わず避けてしまうくらい勢いが強かったみたいだ。
そんなシュートに観客は盛り上がる。


「高瀬!」

「……高岡くん!」


高岡くんは拳を私に突き出してニカッと笑みを浮かべてくれる。
ありがとう。
声に出さず私は口角を上げる。
そして拳を軽くぶつけた。


「ありがとうございました!!」


試合が終わり私たちはプールサイドへと上がる。
勝利を収めた私たちの顔はニコニコと緩んでいた。
次第に客足も去り、プールには部員だけになっていた。