「先生には敵わないよ」

「え?」


暫く経って、落ち着きを取り戻した彼が言った最初の言葉。
その意味が分からず首を傾げた。


「あんなに優しい人を好きにならない訳ないよな。
まあ、偶にブラックな面が出るけど、それでも。
本当に好い人だからな」


1人で納得した様に頷く高岡くん。
だけど私の頭にはハテナが浮かび続けていた。


「ちょっと待って」

「あ?」

「別に私、先生の事が好きな訳じゃないよ?」

「ばーか。
今さら隠さなくたっていいじゃねぇか」

「今更も何も本当の事なんだけど」

「……は?」


高岡くんはキョトンと目を丸くさせる。


「え?」


訳が分からず更に首を傾げていれば沈黙が私たちを包んでいた。
そして数秒後。


「はあぁぁ!?」


高岡くんの絶叫が私に降りかかっていた。


「み、耳が……」


大きすぎるその声に鼓膜の危機を覚えながらも高岡くんを見る。
すると彼の驚いている顔が目に映った。
驚きたいのはこっちなんだけど。
そう思っていればガシリと両肩を掴まれる。


「お前!気が付いてないのか!?
自分が先生の事を好きだって!!」

「何を言って……そんな事ある訳ないじゃない!!」


口ではそう言いながらも顔が熱くなる。
そんな私を見た途端、高岡くんはタメ息を吐いた。


「ふざけんなよ!
そんな真っ赤な顔で否定されたって信じられる訳ねぇだろ!!」

「信じられる、られない、じゃなくて!私は……」


ふと思い浮かんだのは先生の顔だった。

私が過去に憑りつかれて、身動きが取れない時に真っ先に手を差し伸ばしてくれた人。
温かい優しさで私を包み込んで励まして。
新しい夢を、私に泳ぐ意味を、教えてくれた人。
感謝してもしきれないし、尊敬しているし、大好きだけど。
それは教師として、顧問としてだ。