私は誰とも付き合った事がないし、よく分からないけど。
もし。高岡くんが彼氏だったら私はずっと笑顔でいられると思う。

高岡くんは私を傷つける様な事も、寂しい想いをさせる事もないと思う。

ライバルで、親友で。
大好きだけど。

私は、今の距離感が好きだ。
恋人になっても、特に何も変わらないだろうけど。
だけど高岡くんとは同士でいたい。
水泳が大好きで、同じ目標を見る仲間でいたい。
だから。


「……ごめん。
高岡くんとは付き合えない」

「……」

「高岡くんは大好きだけど、今のままが私たちには合っていると思う。
散々待たせておいて、こんな事を言うのは可笑しいけど。
でも私は高岡くんとは親友で、ライバルでいたい。
……駄目……かな……?」


沈黙が胸を痛くさせる。
やっぱり無理なのかな。
図々しいし、自分勝手だよね。


「まあ分かってたけどよ、こうなる事は」


明るく振る舞う高岡くん。
でもその声は震えていた。
涙が出そうになるくらい切ない声。


「ごめん……」


胸が切り裂かれる様な痛みが私を襲う。
でも私はただ謝る事しか出来なかった。


「謝んなって!
頼むから……謝んなよ……」

「高岡くん……」

「いつかちゃんと親友として、ライバルとしてお前を見るから。
だから……」


高岡くんは私を正面から抱き直す。


「今だけは好きでいさせてくれ」

「高岡くん……」

「愛してるんだ。
……誰よりも……」


切ない声が苦しそうな声が静かに教室へと消えていった。
私の肩に感じる冷たさは彼が私を想ってくれていた証拠。
彼の想いが涙と変わって私に降りかかってくる。
時々聞こえてくる押し殺した様な声が私の胸を熱くさせた。