「落ち着いたか?」

「……うん……ごめんね?」


今は空き教室で並んで座っていた。
私が泣き止んでもずっと手を握っていてくれた。
迷惑を掛けてしまった事を謝れば彼は不機嫌そうに呟く。


「謝ってんじゃねぇよ」


口を尖らせていじける様な彼の姿はまるで怒られた後の子供みたいだった。
それが可愛くてクスッと笑えば高岡くんはふわりと優しい笑みを浮かべる。


「やっと笑った」

「え……?」

「今日のお前……ずっと辛そうに笑ってたから」


高岡くんの言葉に私は驚かずにはいられなかった。
ちゃんと笑ってたつもりだったのに。
自分でも気付かなかった事を高岡くんは気付いてくれた。
それが凄く嬉しかった。


「……ありがとう」


小さく呟いた言葉。
誰にも届かない様な小さい声だったけど。


「どーいたしまして」


隣で笑う彼には聞こえていた。
優しく笑うその笑顔に私は一瞬だけ目を奪われた。


「高瀬?」

「え……何でもない!!」


私は紅くなった顔を隠す様に顔を背ける。
ビックリした。
高岡くんってあんな顔で笑うんだ。
そう思っていれば高岡くん手が私の肩を引き寄せた。


「わっ……」


バランスを崩した私は彼の胸に寄り掛かる様に倒れる。
正面から抱きしめられるのとはまた違った距離感に胸が高鳴る。


「あ……あの……」


ドクンドクンと騒ぐ心臓。
私は恐る恐る彼を見上げる。


「……」

「……」


あっ。
見上げた私の瞳に彼の真剣な顔が映る。
高岡くんは私を見下ろす様にジッと見つめていた。


「なぁ……」

「……」


高岡くんの問いかけに答えることが出来ない。
そんな私を見ながら彼は言葉を続ける。


「……俺にしとけよ」

「え……」


今度は答える暇もなく私の唇は塞がれていた。
高岡くんの唇に。


「……あっ……」


ゆっくりと唇から柔らかさが消えていく。


私高岡くんとキスしちゃった?
頭が追い付かず私は指先で唇に触れる。


「えっと……」


戸惑う私に高岡くんは真剣な顔つきのまま言い放った。


「謝らねぇから」

「え……?」

「自分の気持ちに嘘はない。
だからキスした事は謝らねぇ」

「……高岡くん……」


どうして。
今そんな事言わないでよ。
ただでさえ混乱をしているのに。


「……好きだ。
お前の事が好きなんだよ」

「高岡くん……」

「俺ならお前を泣かせたりしない。
いつだって傍にいれる」


その言葉が私の中に入り込んでくる。
どんなに拒んでも高岡くんの声は私の耳を支配していく。