「……つ、疲れた……」


泳ぎ切った頃にはすっかりと体力が尽きていた。
プールサイドで倒れこみながら上がる息を整える。


「さ、流石にやばいな。
……もう1歩も動けねぇ……」


寝転がったままチラリと横を向けば、私と同じ様に倒れこむ高岡くんが目に映った。
体力がある彼でさえあの状態だ。
よく泳ぎ切ったな、私。
体は疲れ切っているけど、心は清々しかった。


「お疲れ様でした、2人とも」


先生は私たちを見下ろしながら、いつもと変わらない優しい笑顔を浮かべていた。


「鬼畜」

「っぷ!!」


そんな先生に高岡くんはポツリと呟いていた。
思わず吹き出してしまった私は慌てて口を塞ぐ。
だって先生の顔がまた悪戯っ子の様に見えたから。


「鬼畜、ですか。
じゃあ、もう1セットずつやっておきましょうか」

「う、嘘です」


先生の言葉に思いっきり顔を横に振る高岡くん。
そんな2人を見ていれば自然に笑顔になっている自分がいた。


「高瀬さん?
そんなに泳ぎたいんですか?」


先生は私を見るとニコリと顔を緩めた。


「……はい!今無性に泳ぎたくなりました!」

「はい?」

「は!?」


先生と高岡くんの驚く顔を背中にして、私はプールへと飛び込んだ。