夏休みはあっという間に過ぎていき、明日は始業式を迎えようとしていた。

高校生の夏休みと言えば、花火、夏祭りといった楽しい思い出がいっぱいあるだろう。
でも、私はというと、正直ひとつもない。
だからと言って退屈だった訳ではない。
誰よりも夏休みを満喫したと胸を張って言えるだろう。
だって、毎日の様に水泳漬けだったのだから。
授業もなく、1日ずっと泳いでいられる。
部活がない日も、先生に頼んでプールを使わせて貰ったし。
こんなに楽しい事は他にないだろう。


「高瀬さん、少しペースが速いですよ」

「大丈夫です!まだまだいけます!」


部活中に先生に注意されるが、私は笑顔で首を振った。
疲れたとか、辛いとか、私はちっとも感じない。
寧ろ、楽しい。
泳げる事が何よりも嬉しいから。


「高岡くんももう少しペースを落として下さい」

「大丈夫っす!」


高岡くんも私と同じ様に首を振った。
それを見た瞬間、先生は深くタメ息を吐いた。
捻挫が治り、完全復活を果たした高岡くんはもうすっかりいつもの泳ぎを取り戻していた。
泳げなかった分まで気合いが入っているみたいだ。


「全くキミたちは……」


でもその顔は呆れているというより嬉しそうだった。
たぶん、いや。
絶対に先生も私たちと同じだからだ。
先生も水泳が大好きだから、私たちの気持ちが分かるんだ。