「私は……平泳ぎをした事で分かった事があるから」

「分かった事……?」


うん、私は……。


「やっぱり水泳が大好きだって」

「……ばーか」


高岡くんは呆れた様に笑った。


「今更だっつーの」

「うるさいなー。
それより高岡くん。何でここに来たの?
てっきり帰ったのかと……」


ずっと疑問に思っていた事を口に出せば高岡くんは思い出した様に私に近づく。


「言い忘れてた事があってよ」


高岡くんは足を引きづる様にして私の前まで歩いてくる。
松葉杖が倒れたまんまだけど、大丈夫かな。
考えていれば何かが私に突き出された。
高岡くんの拳だ。


「高岡くん……?」

「高瀬……3位……おめでとう!」


私は一瞬だけ目を見開く。
でもすぐに頬は緩んだ。


「ありがとう」


コツンと自分の拳を高岡くんにぶつけた。


「なあ」

「ん?」


高岡くんはいきなり真剣な顔つきになって私を見据えた。
だから私も真面目に彼の顔を見つめ返した。


「お前は今度こそ自由形で大会に出る事になるだろう」

「……うん」

「俺は平泳ぎで」

「……うん」


何が言いたいかがなんとなく分かった。
だけど私は黙ったまま頷く。


「泳ぎは違っても俺たちの見ているモノは一緒だ。
絶対に優勝するぞ、2人で」

「うん。もう誰にも負けないし逃げ出さない」

「ああ、俺たちより水泳が好きな奴なんてこの世に誰1人いない。
だから勝って、勝って、勝ちまくって証明しようぜ」


再びコツンと拳をぶつけて私たちは誓い合った。