「……いいですよね先生?」


先生は真剣な目で私と高岡くんを交互に見つめる。
そして。


「……わかりました」


そう言って優しく微笑んでくれた。


「高瀬さんは平泳ぎに自由形は山本くんに変更します」


先生ありがとう。
皆に気が付かれない様に先生を見ればニコリと小さく笑ってくれる。


「真希ちゃん!自由形は俺に任せとけ!」

「先輩……ありがとうございます!」


皆に迷惑を掛けた分、ちゃんとお返ししなきゃ。
私の泳ぎで。


「ところで……高瀬さん」

「はい?」

「平泳ぎ出来ましたっけ?」

「……あっ……」


私はポカンと口を開ける。


「まさか……」


皆は引き攣った様に私を見ていた。


「泳げないです!」


明るく言えば皆に怒鳴り散らされる。


「馬鹿野郎!
さっきの感動的なやり取りは何だったんだ!?」

「しかも大会まで2週間しかないぜ!?」


どうしよう。
私まったく泳げないや。
先輩たちも私も困り果てていたが2人は違ったみたいだ。


「……ったく……仕方ねぇな」

「仕方ないですね」

「高岡くん?先生?」


2人が同時にタメ息を吐く。
そして意地悪な笑みを浮かべた。


「俺が特別に指導してやるよ」

「僕が徹底的に教えます」


私はこの時初めて思い知った。
この2人がタッグを組んだら凄く恐ろしいという事を。

ああ。
これから私の地獄の毎日が始まる。
これからの事を考えただけで倒れそうだ。