「真希ちゃん……本気……?」

「はい」


嘘や冗談でこんな事は言わない。
これが高岡くんの為になるかは分からないけど。
こうする事で少しでも恩返しが出来れば。


「高瀬……何言ってんだよ!
お前は自由形で……」

「今回は自由形は諦める」


私は2つの事をこなすほど器用な性格はしていない。
だから平泳ぎを選ぶと決めた以上は自由形は必然的に諦めなければいけない。


「馬鹿な事……言ってんじゃねぇよ!
せっかく努力して……やっと泳げるようになって……」


高岡くんは泣きそうな顔で私に話しかけている。
全くまだ私の事を気にして。


「馬鹿はどっちよ!」

「高瀬……?」


私は怒鳴ると高岡くんの目の前まで近付く。
そして両手で彼の頬を包み込んだ。


「私だって……あなたの力になりたい」


そりゃあ、自由形を諦めるなんて悔しい。
私にはこの泳ぎしかないってずっと思っていた。
泳げれる様になって、やっとあの舞台に戻れるって。
凄く嬉しかったし、必死になって頑張ってきた。

でも、そんな自分の想いより今は。

高岡くんを真っ直ぐと見て頬を緩めた。

いつも私を支えてくれた高岡くん。
今度は私が高岡くんを支えたい。


「高瀬……」

「こんな事されても嬉しくなんかないと思う。
でも……」


高岡くんに恩返しをするにはこの方法が1番最適だ。
あなたが誘ってくれた水泳部であなたの為に泳ぎたい。


「私に泳がせて。
高岡くんの想いは私が全部受け継ぐから」


それが私に出来る唯一の恩返しだから。


「高瀬……」


高岡くんの瞳からひと粒の涙が零れ落ちた。


「っ……頼んだ……」


でもすぐにニカッと最高の笑顔をくれる。


「任せて!」

「……ああ、任せたぞ高瀬……」


高岡くんは松葉杖を脇に挟み震える拳を私に突き出した。

高岡くん。あなたの想い引き継ぎました。
コツンッと拳を重ね私は笑顔を浮かべた。